大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)2098号 判決

控訴代理人は昭和二十九年五月七日午前十時の口頭弁論期日に出頭しない。

控訴人において陳述したものとみなした控訴状の記載によると、控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、昭和二十七年七月一日から、原告宮本としゑの被告宮本由松に対する東京地方裁判所昭和二十八年(タ)第八〇号離婚届無効戸籍訂正請求訴訟事件の判決がなされるまで、一箇月当り金二万円づつ毎月末日限り控訴人方に持参して支払わなければならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めるものである。

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴代理人が陳述した原審における口頭弁論の結果によると、当事者双方の事実上の主張並びに疏明の提出、採用、認否は、すべて原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

三、理  由

控訴人は「控訴人は被控訴人と昭和十一年十一月十八日婚姻し極貧のうちからともに刻苦努力した結果、子女六人を挙げ被控訴人の自動車運輸事業は発展の一途をたどり被控訴人は今日では約金五千万円の資産を有するに至つた。しかるに被控訴人は素行不良で多くの婦人と関係し家庭をかえりみず、昭和二十七年六月頃からは妾を自宅に連れこみ控訴人を邪魔物扱いにし乱暴の限りを尽くし、控訴人に無断で昭和二十八年一月十八日子の親権者を被控訴人と定めた協議離婚届を偽造し、本籍地役場に届け出た。その後控訴人は益々被控訴人から圧迫をうけ遂に居宅から単身追い出されたので、知人久保田敬忠方に身を寄せ収入もないままに同人の好意にすがつて今日までやつと生活を続けて来た。もとより右離婚届出は控訴人の意思にもとずかない当然無効の届出であり、依然として控訴人被控訴人は婚姻中であるにもかかわらず被控訴人は右のように控訴人に対する扶助義務を尽くさない。よつて控訴人は今回東京地方裁判所に請求の表示に記載した訴訟を提起したが、なおこれとは独立に扶養料支払の訴訟をも提起しようとするものである。しかし控訴人はこれらの事件の判決を待つていては到底生活を維持することができない苦境にあるので、この危険を避けるため必要な生活費として、被控訴人の資産状態も考慮し請求の趣旨記載のような金額の支払を命ずる仮処分命令を求めるものである。」と主張し、本件申請は、当事者間の協議離婚が控訴人の真意にもとずかない当然無効のものであつて、夫たる被控訴人は控訴人に対し民法第七百五十二条の規定による夫婦扶助の義務があるとの理由によつて、仮の地位を定める仮処分として扶助料の請求をなすものである。従つて本件仮処分申請によつて保全すべき請求権は民法第七百五十二条にもとずく権利であると認められる。

ところで民法第七百五十二条の規定による夫婦間の扶助に関する請求権の存否及びその程度方法を決定する事件は専ら家庭裁判所の管轄に属し地方裁判所は管轄権を有しないものと解すべきである。すなわち、裁判所法第三十一条の三第一項は、家庭裁判所が家事審判法で定める家庭に関する事件の審判及び調停をなす権限を有する旨を規定し、家事審判法は、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図るため家庭裁判所が同法第九条に掲げる事項について審判を行い同法第十七条に定める事件について調停を行う旨を定めているから、家事審判法の目的及び家庭裁判所の機能に関し右に定める審判事項及び調停事件は専ら家庭裁判所の管轄に属させ、地方裁判所にはこれについての管轄権を持たせないものと定めた法意と解されるのである。従つて家事審判法第九条に掲げる審判事項については特に地方裁判所において裁判をなし得る旨の法律上の規定がない限り、地方裁判所はこれについて管轄権を有しないものである。しかして民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力扶助に関する処分は家事審判法第九条第一項乙類第一号によつて審判事項として定められており、これについては地方裁判所において裁判をなし得ることを定めた法律上の規定がない。以上の理由によつて、民法第七百五十二条の規定による夫婦間の扶助義務にもとずく扶養料請求事件は専ら家庭裁判所において家事審判法の規定に従つて、審判すべきものと解される。

さて保全すべき請求権の存否が家庭裁判所の審判事項として専ら家庭裁判所において家事審判法の規定に従つて審判すべきものである場合には、地方裁判所に対して右の請求権を保全するため民事訴訟法の規定による仮処分命令の申請をなすことは許されないのである。このことは、前記家事審判法等の法意に照し、明かである。従つてもしも家庭裁判所の審判事件について審判がなされる以前に権利の保全をなす必要がある場合には、家事審判法及び家事審判規則の規定に従つて臨時の処分を求めるべきものである。民法第七百五十二条の規定による夫婦間の扶助については民事訴訟法に定める仮処分の規定を適用し又はこれを準用する旨定めた規定はないのであるから、右扶助の規定による請求権を保全するため地方裁判所に対して仮処分命令の申請をなすことは許されないところである。従つて本件仮処分申請については地方裁判所は管轄権を有しないものであり、本件仮処分申請は不適法である。

よつて本件仮処分申請を却下した原判決は相当であつて、本件控訴はその理由がないものであるから、これを棄却すべきものとし、民事訴訴法第三百八十四条、第五十九条、第八十九条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 浜田潔夫 仁井田秀穂 渡辺一雄)

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